夏の水辺でひときわ目を引く昆虫、それがチョウトンボです。
「空飛ぶ宝石」や「舞う宝石」とも称されるその姿は、一度見たら忘れられない美しさです。
本記事では、チョウトンボの美しい翅の秘密や、その名が示す優雅な飛び方、そしてどこでその姿を観察できるのかを詳しく解説します。
チョウトンボの最大の特徴|輝く「構造色」の翅
チョウトンボの最大の魅力は、幅広く大きな翅(はね)が放つ、メタリックな輝きです。
光の角度で変化する「構造色」
一般的なトンボの翅が透明であるのに対し、チョウトンボの翅は光沢のある青色、青紫色、または緑色を帯びています。
この色彩は、色素によるものではなく、シャボン玉や玉虫の翅と同様の「構造色(こうぞうしょく)」によるものです。
- 構造色とは?
翅の表面の非常に緻密な微細構造(翅脈など)が光を反射・干渉させることで発色する現象です。 - 観察の醍醐味
構造色のため、光の当たり方や見る角度によって、青みが強く見えたり、紫や黒っぽく見えたりと、輝きや色合いが劇的に変化します。
この変化こそが、チョウトンボの美しさの真髄です。
オスとメスで異なる輝き
チョウトンボの翅の色は、雌雄によって傾向が異なります。
| 性別 | 翅の色と輝き |
| オス | 全体的に青紫色の強い金属光沢で輝く個体が多い。 |
| メス | オスに比べて黒味が強いが、金緑色から青紫色に輝く個体もいる。 |
名前の由来|蝶のように「ひらひら舞う」飛翔
「チョウトンボ」という和名は、その美しい翅だけでなく、特有の優雅な飛び方にも由来しています。
他のトンボにはない独特の飛翔スタイル
ヤンマなどの多くのトンボが高速で直線的に飛ぶのに対し、チョウトンボは翅を大きく羽ばたきながら、まるでチョウ(蝶)のように「ひらひら」と舞うように飛びます。
- 幅広の翅
体の割に翅の幅が広く、この形状がゆっくりとした独特の飛翔を可能にしています。 - 観察のポイント
旋回飛翔や滑空を織り交ぜながら水面付近を舞う姿は、優雅で美しく、遠目にも他のトンボとは区別しやすい特徴です。
このゆっくりとした飛び方が、キラキラと輝く翅の美しさを際立たせる効果も生んでいます。
チョウトンボに「出会える場所」と時期
この美しいトンボに出会うためには、どんな場所を探せば良いのでしょうか。
生息環境|植生豊かな「いい池」
チョウトンボは、平地から丘陵地にかけての、以下の環境を好みます。
- 浮葉植物(ヒシなど)や抽水植物(ハス、ヨシなど)が豊富に生い茂った池沼。
- 底質が泥で、腐植栄養型(やや富栄養化)の比較的開けた明るい水辺。
- 都市部の公園の池でも、上記のような環境が整っていれば生息していることがあります。
水草が豊富で、他の生物も多く見られるような池は、チョウトンボが生息する「自然度の高い良い池」の指標にもなります。
観察に最適な時期と時間帯
- 出現時期(旬)
6月頃から出現し始め、盛夏の7月~8月にもっとも多く見られます。
秋に入ると個体数は減少します。 - 観察のポイント
成熟したオスは水辺の枝先などに止まって縄張りを占有し、メスは単独で水面に打水産卵を行います。
特に日差しの強い晴れた日は、構造色が強く輝き、チョウトンボの美しさを最大限に観察できます。
チョウトンボを「より美しく」撮影するコツ
その輝く姿を写真に収めたい人も多いでしょう。
- 光を味方につける
翅の構造色が最も輝くのは、強い直射日光が当たっている時です。
太陽を背にして順光で観察・撮影すると、青や紫のメタリックな輝きが際立ちます。 - 動きを捉える
チョウのようなひらひらとした飛び方を動画で撮影したり、ホバリング(空中停止)する瞬間を狙うと、躍動感のある美しい写真が撮れます。 - 背景とのコントラスト
水辺の緑や青い空を背景にすると、翅の鮮やかな色彩が引き立ちます。
特にハスの葉などの緑とのコントラストは絶景です。
まとめ
チョウトンボは、その特異な構造色の翅と、蝶のように優雅な飛翔によって、日本の夏の水辺を彩る「空飛ぶ宝石」です。
6月から9月にかけて、水草の多い池沼を探して、ぜひこの神秘的な輝きを放つトンボを探してみてください。
光の当たり方で表情を変えるその美しさは、きっと感動的な出会いとなるでしょう。


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