日本固有の美しいトンボ「ミヤマアカネ」は、秋の里山を彩る代表的な存在です。
和名に「深山」とありますが、実際は丘陵地や低山地の緩やかな流れのある小川や水路、水田などを主な生息地としています。
最大の特徴は、成熟したオスに見られる全身の鮮やかな赤色。翅の縁紋(ふちもん)までもが赤く染まるのが特徴です。
他のアカネ属が止水域(池など)を好むのに対し、ミヤマアカネは流水性の傾向があるという点も、飼育を考える上で重要なポイントとなります。
この記事では、ミヤマアカネのヤゴ(幼虫)と成虫それぞれの飼育方法を、観察のコツや注意点を含めて詳しく解説します。
ミヤマアカネのヤゴ(幼虫)の飼育方法
ミヤマアカネは卵で越冬し、翌春に孵化します。
ヤゴの期間は種類にもよりますが、通常数ヶ月(4〜8月頃に見つかることが多い)で、1年1世代です。
飼育環境の準備
| 項目 | 詳細とポイント |
| 飼育容器 | できるだけ広い水槽(観察しやすさも考慮)を用意します。 |
| 飼育水 | 水道水で構いませんが、必ずカルキ抜きをしましょう。 汲み置き水(1日程度)を使うか、市販のカルキ抜きを使用します。 |
| 水質・水温 | 水温は20〜25℃を目安に調整します。 高すぎても低すぎてもヤゴには悪影響です。小さな容器の場合は、水温変化が激しくなりやすいので注意が必要です。 水が汚れやすいため、ろ過装置の設置も検討しましょう。 |
| 底材・隠れ家 | 生息地は川岸の泥や砂、植物の根ぎわです。 水底を這ったり、隠れたりできるよう、砂利や水草、または川岸の植物の根のようなものを入れてあげると良いでしょう。 |
餌やり
ヤゴは肉食性です。
水槽内の水生昆虫(ミジンコなど)、アカムシ、イトメなどを与えます。
食べ残しは水質悪化の原因になるため、こまめに取り除きましょう。
羽化の準備
ヤゴが成長し、餌を食べなくなったら羽化が近いサインです。
- 足場(止まり木)の設置
羽化は水辺から上がって行われます。
水面から10cm以上出るような棒や枝を斜めに立てかけて、ヤゴが登れるように準備します。 - 水位の調整
飼育ケースの天井が低い場合は、棒が天井に触れないよう、水量を少なく調整するのもコツです。 - 羽化の観察
羽化は通常夜間に行われます。
無事に羽化が終わり、翅が完全に伸びて乾いたら(数時間〜半日)、自然に帰してあげましょう。
ミヤマアカネの成虫の飼育方法
トンボの成虫は飛び回るスペースが必要なため、長期飼育は難しいとされています。
観察を目的とする場合でも、可能な限り短期間にし、十分観察したら自然に帰すのが原則です。
飼育環境の準備
| 項目 | 詳細とポイント |
| 飼育スペース | トンボにとって広いスペースを飛び回ることは非常に重要です。 できる限り大きい飼育ケースを用意するか、蚊帳や古いカーテンで覆った専用の広い空間(インセクタリウム)を設けるのが理想です。 |
| 保湿 | トンボは乾燥に弱いため、保湿が非常に大切です。霧吹きで適度に保湿したり、水場を作ったりしてあげましょう。 特に真夏日はすぐに乾燥するため、水場の水が傷まないよう、適度な水の交換も必要です。 |
| 日光浴 | ミヤマアカネの美しい赤色は、太陽光の下で本領を発揮します。 日中は日光が当たる場所に置くか、日光浴の時間を作ってあげましょう。 ただし、高温になりすぎないよう、風通しの良い場所を選び、直射日光でケース内が蒸れないよう細心の注意を払ってください。 |
餌やり
トンボは生きている小さな昆虫しか食べません。
- 主な餌
ショウジョウバエ、小さなガ、アブラムシ、イエバエなど。 - 与え方
餌をピンセットなどでつまみ、トンボの口元に持っていくなどして与えます。
トンボが自分で餌を捕まえられる広い環境があれば、その中で餌となる昆虫を放す方法もあります。
健康管理と注意点
- 放飛
飼育ケースが小さい場合は、1日に1回はケースから出し、広い空間で自由に飛び回らせてあげる時間を作りましょう。 - 脱走防止
広いスペースを確保する場合、蚊帳や網の隙間から逃げ出さないよう、完全に密閉できる環境を作ってください。
まとめ|ミヤマアカネ飼育の成功のために
ミヤマアカネの飼育は、ヤゴ・成虫ともに「広さ」「水質・水温管理」「湿度」が成功の鍵となります。
特に成虫は、自然界で常に飛翔し、生きた餌を捕獲しています。
その生活を再現するのは難しいため、観察の目的を果たしたら、できるだけ早く元の生息地へ帰してあげることが、最も大切で責任ある飼育方法と言えます。
美しいミヤマアカネの生態を、飼育を通して深く学び、その魅力を再発見しましょう!


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