秋の夜長に澄んだ音色を響かせるマツムシ。
「チンチロリン、チンチロリン」という風情ある鳴き声は、古くから日本の秋を象徴する存在として、詩歌や文学に数多く登場してきました。
多くの人にとって馴染み深い昆虫ですが、実はその生態や、よく似た鳴き声を持つ他の昆虫との違いまで、詳しく知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。
この記事では、マツムシの種類や見分け方、そしてその生態まで詳しく掘り下げていきます。
マツムシとは?基本情報と特徴
まず、日本の秋を代表するマツムシ(学名:Meloimorpha japonica)の基本情報から見ていきましょう。
- 分類
バッタ目マツムシ科 - 体長
オスが約20mm、メスが約25mmと、メスの方がやや大きめです。 - 体色
褐色から淡い褐色をしており、草むらや枯れ葉の中で保護色として機能します。 - 生息地
本州、四国、九州に広く分布しており、主に河川敷や草むらなどの湿った場所に生息しています。
マツムシの大きな特徴は、その長い触角と、前翅をこすり合わせて鳴く発音器です。
鳴くのはオスだけで、メスを引き寄せるための求愛行動として美しい音色を奏でます。
知っておきたいマツムシの近縁種と種類
「マツムシ」と一言で言っても、実はいくつかの種類が存在するわけではなく、一般的に「マツムシ」と呼ばれている種は1種類です。
しかし、その鳴き声や姿が似ていることから、アオマツムシやカネタタキといった全く別の昆虫と混同されることが非常に多いです。
ここでは、マツムシとよく間違えられるこれらの昆虫について詳しく解説します。
マツムシ(Meloimorpha japonica)
日本の秋を代表する鳴く虫の筆頭です。
その最大の特徴は、多くの人がイメージする「チンチロリン、チンチロリン」というリズミカルで澄んだ鳴き声にあります。
この鳴き声は、前翅にあるヤスリ状の器官と、弦楽器の弦のような器官をこすり合わせることで生み出されます。
彼らは夜行性で、夕方から夜にかけて活発に鳴き始めます。
アオマツムシ(Oecanthus longicauda)
マツムシと名前が似ていますが、カネタタキ科に分類される別の昆虫です。
近年、都市部でよく見かけるようになった種類で、街路樹や公園の植え込みなどで「リーリーリー」と連続して鳴くのが特徴です。
- 鳴き声: 「リーリーリー」と高く澄んだ音色で、途切れることなく連続して鳴きます。
- 見た目: その名の通り、体色が淡い緑色で、細長い体が特徴です。マツムシよりもやや小型です。
- 生息地: 街路樹や公園、住宅街の庭木など、人の生活圏に広く分布しています。
カネタタキ(Gryllus bimaculatus)
こちらもカネタタキ科に分類される昆虫です。
その名前は「鐘叩き」に由来しており、「チン、チン、チン」と鐘をたたくような、単発的でリズミカルな鳴き声が特徴です。
- 鳴き声: 「チン、チン、チン」と、やや金属的な音色で、一定の間隔を置いて鳴きます。
- 見た目: マツムシよりも体が小さく、色は黒っぽいのが一般的です。
- 生息地: 家の軒下やベランダ、植木鉢の陰など、人の身近な場所によく潜んでいます。
見分け方のポイント!鳴き声と生息地
マツムシ、アオマツムシ、カネタタキは、鳴き声と生息地をヒントに簡単に見分けることができます。
鳴き声の表現 | 鳴き方の特徴 | 主な生息地 | |
マツムシ | チンチロリン | 澄んでいてリズミカル。求愛の歌。 | 草むら、河川敷など自然の多い場所 |
アオマツムシ | リーリーリー | 高く連続的で、途切れない。 | 街路樹、公園の植え込みなど都市部 |
カネタタキ | チン、チン | 低く金属的で、単発的。 | 家の軒下、ベランダなど人の身近な場所 |
このように、それぞれの鳴き声は全く異なるため、耳を澄ませて聴き分けることが最大のポイントです。
マツムシの飼育方法と楽しみ方
マツムシは、その美しい鳴き声を楽しむために、古くから鳴き虫文化として飼育されてきました。
飼育の際は、以下の点に注意しましょう。
- 飼育容器: 蓋がしっかり閉まり、通気性の良い昆虫用ケースを用意します。
- 床材: 湿らせた土や砂を敷き、小さな石や木の枝を入れて隠れ家を作ってあげましょう。
- 餌: ナスやキュウリ、キャベツなどの野菜、昆虫ゼリーが適しています。
- 水: 濡らした脱脂綿やスポンジを置いておき、乾燥しないように注意します。
- 産卵: メスを飼育する場合は、深めの土を入れた容器を用意すると、土の中に産卵します。
マツムシの飼育を通して、その繊細な生態を観察したり、夜に響く美しい鳴き声に耳を傾けたりすることで、より深く秋の風情を感じることができます。
まとめ
秋の夜空に響くマツムシの鳴き声は、日本の豊かな自然を象徴する美しい音色です。
しかし、実はその鳴き声に耳を傾けてみると、アオマツムシやカネタタキといった、他の鳴く虫の存在にも気づかされるでしょう。
それぞれの鳴き声の違いを知ることで、これまでとは一味違う秋の楽しみ方が見つかるかもしれません。
皆さんもぜひ、今夜は耳を澄ませて、どんな鳴き声が聞こえてくるか探してみてはいかがでしょうか。
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