秋の夜長に聞こえてくる美しい鳴き声。
その主であるマツムシとコオロギは、多くの人々に愛される昆虫です。
しかし、「似ているようで、実は全く違う」ということをご存知でしょうか。
ここでは、両者の「姿」「鳴き声」「生息地」「生態」「文化的側面」という5つの観点から、その奥深い違いを解説していきます。
1. 姿と体のつくり|見た目の明確な違い
マツムシとコオロギは、同じバッタ目ですが、その見た目はかなり異なります。
マツムシ
- 体の形
全体的に細長く、扁平な体つきをしています。
まるでマツの葉が落ちて地面を這っているかのように見え、その姿が名前の由来になったと言われています。 - 体色
主に淡い緑色や茶色をしており、周囲の草木に溶け込みやすい保護色です。 - 翅(はね)
オスとメスで翅の形状が異なります。
オスは鳴くための発音器が発達しており、背中に白い筋のような模様が見られるのが特徴です。
メスはよりシンプルで細長い翅を持ちます。 - 触角
コオロギに比べると、触角は比較的短めです。
コオロギ
- 体の形
ずんぐりとしていて、丸みを帯びた頑丈な体をしています。
特に代表的なエンマコオロギは、その名の通り閻魔様のように大きく、威圧的な見た目をしています。 - 体色
光沢のある黒褐色や黒色が一般的です。 - 触角
マツムシと比べて非常に長く、体の数倍の長さになることも珍しくありません。
この長い触角で周囲の情報を探ります。
2. 鳴き声の違い|秋の夜を彩る二つの音色
マツムシとコオロギを区別する最も大きなポイントは、その鳴き声です。
マツムシの鳴き声:「チンチロチンチン、チンチロリン」
- 音の響き
鈴を転がすような、清らかでどこか物悲しい響きが特徴です。
和歌や俳句では、その風流な音色が古くから愛されてきました。 - 鳴く時間帯
主に夜、特に秋の深まりとともに活発に鳴きます。 - 鳴き方
オスが前翅を擦り合わせて音を出します。
この独特な音色は、メスを引きつけるための求愛行動です。
コオロギの鳴き声:「コロコロコロ」
- 音の響き
マツムシに比べて、より力強く、リズミカルな響きです。
「コロコロ」という音は、どこか親しみやすく、日本の秋の音風景として定着しています。 - 鳴く時間帯
昼間はあまり鳴かず、夜になると活発に鳴き始めます。 - 鳴き方
マツムシと同様に、オスが前翅を擦り合わせて音を出します。
コオロギは音を出すことで、自分の存在をアピールし、縄張りを主張したり、メスに求愛したりします。
3. 生息地の違い|好みは少し異なる

両者は似たような環境に生息しますが、好む場所には微妙な違いがあります。
マツムシ
- 主な生息地
背の低い草原や、乾燥した河原の草むらを好みます。
水はけの良い場所を選んで生息していることが多いです。
コオロギ
- 主な生息地
草原、田んぼの畔、畑、庭先、さらには人家の周りなど、より広範囲に生息します。
地面に穴を掘って巣を作ったり、石の下に身を隠したりすることもあります。
4. 生態と食性|意外な違い
マツムシとコオロギは、食性や生活様式にも違いがあります。
マツムシ
- 食性
主に植物食で、草木の葉や茎を食べて生活しています。 - 行動
縄張り意識が強く、オス同士が出会うと激しく争うことがあります。
コオロギ
- 食性
雑食性で、植物だけでなく、他の昆虫の死骸や動物の糞なども食べます。 - 行動
繁殖期にはオスが盛んに鳴き、メスを呼び寄せます。
メスは産卵管を土に差し込んで卵を産みます。
5. 文化的な側面|日本の秋の象徴
日本において、マツムシとコオロギは古くから文学や芸術の題材となってきました。
- マツムシ
源氏物語や万葉集にも登場するほど、古くから親しまれてきました。
その鳴き声は「風流な音色」として重んじられ、多くの歌人や文人に愛されました。
昔は鳴き声を楽しむために飼育されることもありました。 - コオロギ
「コロコロ」という鳴き声が、どこか懐かしさや親しみを感じさせ、童謡や民話にも登場します。
特に子供たちにとっては、身近な昆虫として認識されています。
まとめ|一目でわかるマツムシとコオロギの見分け方
特徴 | マツムシ | コオロギ |
体の形 | 細長く平たい | ずんぐりとして丸い |
体色 | 緑や茶色 | 黒褐色や黒 |
鳴き声 | 「チンチロチンチン、チンチロリン」 | 「コロコロコロ」 |
生息地 | 主に草の低い草原 | 広範囲(庭先、畑、土中など) |
食性 | 植物食 | 雑食性 |
このように、マツムシとコオロギは多くの点で異なります。
次に秋の夜に鳴き声を聞いたときは、ぜひその違いを思い出し、どちらの昆虫か耳を澄まして聞いてみてください。
きっと、秋の夜の散歩がより一層楽しくなるはずです。
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