童謡『手のひらを太陽に』にも登場する「オケラ」。
ミミズやアメンボと並び、私たちにとって身近な生き物として知られています。
しかし、実際にその姿を見たことがある方は少ないかもしれません。
それもそのはず、ケラはほとんどの時間を地中で過ごす、バッタ目ケラ科に分類されるユニークな昆虫だからです。
この記事では、知られざるケラの生態、名前の由来、そして水陸空のすべてをこなす驚きの「七つ芸」について解説します。
ケラ(オケラ)とは?名前の由来と基本情報
「オケラ」という俗称で親しまれていますが、正式な和名は「ケラ(螻蛄)」です。
ここでは、ケラの基本的な分類と、そのユニークな名前の背景を紹介します。
分類と学名「モグラコオロギ」
ケラはバッタ目キリギリス亜目コオロギ上科ケラ科に属し、コオロギの仲間です。
| 分類 | 詳細 |
| 和名 | ケラ(螻蛄)、オケラ(俗称) |
| 学名 | Gryllotalpa orientalis など |
| 分類群 | バッタ目・ケラ科 |
| 体長 | 約30〜50mm |
| 分布 | 北海道から沖縄まで日本全国 |
ケラの学名 Gryllotalpa は、ラテン語で「Gryllo(コオロギ)」と「talpa(モグラ)」を組み合わせたものです。
英名もそのまま「Mole cricket(モグラコオロギ)」と呼ばれています。
この名前の通り、ケラの最大の特徴は、モグラそっくりに発達した前脚です。
「オケラ」の語源と俗称
俗称の「オケラ」は、単に接頭語の「お」がついたものですが、日本では古くから親しまれてきた呼び名です。
また、現代では「オケラになる」という言葉が「お金を全て失う」という意味で使われます。
これは、昔の賭博で負けた人が、穴を掘って地面に潜り込むケラのように「一文無しになって身を隠す」様子から来ているという説があります。
驚異の運動能力!ケラの「七つ芸」
ケラが地中生活に特化しながらも、他のコオロギにはない多才な能力を持つことから、「ケラの七つ芸」という言葉があります。
地上、水中、空中のすべてをこなす万能さ
ケラは、昆虫界でも珍しいほどの多様な動きが可能です。
- 潜る(掘る)
モグラのような前脚で土を掘り、地中に巣を作って生活する。 - 歩く
地上を歩行する(俊敏ではない)。 - 泳ぐ
ビロード状の細かい体毛が水をはじき、前脚をオールのように使って器用に泳ぐ。 - 飛ぶ
ほとんどの種は長大な後翅を持ち、夜間に光に集まるように飛翔する。 - 鳴く
オスが「ジィー」「ビー」と大きな声で鳴き、メスもわずかに発音できる。 - 食べる
植物の根や種子、ミミズや小昆虫などを食べる雑食性。 - よじ登る
垂直な壁を登る能力も持つ(ただし途中で落ちやすい)。
特に「泳ぐ」「飛ぶ」「潜る」の水陸空に対応した運動能力は、他の昆虫と比べても際立っています。
鳴き声と出現時期:地上でケラを探すには?
普段は地中にいるため目にすることの少ないケラですが、以下の時期や場所では地上に現れやすくなります。
- 繁殖期(春から初夏)
オスがメスを呼ぶために地中や地表で「ビーーー」という独特の鳴き声を発します。
耳を澄ませば、地中から聞こえるこの音で居場所がわかることがあります。 - 田植えの代掻き(しろかき)の時期
田んぼに水が入り土がかき混ぜられると、ケラが水面に浮き上がって泳ぎ出すため、観察しやすいタイミングです。 - 夜間の街灯周辺(秋口)
新成虫が新しい生息地を求めて移動する際、夜の光に誘引されて飛んでくることがあります。
なぜケラは「器用貧乏」の代名詞に?
ケラは多くの芸を持つ一方で、「螻蛄の七つ芸」という言葉は、しばしば「器用貧乏」を指す慣用句として使われます。
これは、ケラが「潜る」「泳ぐ」「飛ぶ」など多様な能力を持つにもかかわらず、どれ一つとして最高レベルで得意ではない、という皮肉から来ています。
- 地中での穴掘りはモグラに敵わない
- 水中での移動はアメンボや水生昆虫には及ばない
- 空中飛行は蝶やトンボほど優雅ではない
この言葉は、器用すぎて専門分野を持てず、結局大成できない人を指す教訓として、今に伝えられています。
まとめ
ケラ(オケラ)は、そのユニークな姿と多才な能力から、古くから人々に親しまれてきた昆虫です。
- 特徴
モグラそっくりな前脚を持つコオロギの仲間。 - 生態
地中での生活が主だが、泳ぐことも飛ぶこともできる水陸空の万能選手。 - 豆知識
「オケラになる」の語源や「七つ芸」が「器用貧乏」を意味するなど、文化的な側面も持つ。
地中でひっそりと暮らす彼らに、ぜひ一度注目してみてください。
その驚きの能力に魅了されるかもしれません。


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