日本の夏を彩る美しい昆虫、カナブン。
そのきらめくメタリックボディと、樹液に夢中になる愛らしい姿は、私たちを童心に帰らせてくれます。
カブトムシやクワガタムシに比べると地味な存在と思われがちですが、実は飼育が比較的簡単で、お子さんの初めての昆虫飼育や夏の自由研究にぴったりな生き物です。
この記事では、カナブンを健康に、そして楽しく飼育するために必要な準備、適切な飼育環境の作り方、日々の丁寧なケア、さらには命の神秘を感じる繁殖の試み、そして飼育中に起こりがちなトラブルとその対策まで、カナブン飼育に関するあらゆる情報を網羅的に解説します。
夏の訪れとともに、あなたもカナブンとの触れ合いを始めてみませんか?
1. カナブン飼育の第一歩|必要なものと入手方法の全て
カナブンとの共同生活を始めるにあたり、まずは快適な住まいと食事を用意してあげましょう。
特別なものはほとんど必要なく、手軽に準備できます。
飼育用品の徹底リスト
カナブンを健康的に育てるために揃えておきたいアイテムは以下の通りです。
- 飼育ケース
カナブンが自由に動き回れる十分な広さがあり、なおかつ通気性が確保されたものが理想です。
プラスチック製の虫かごや、小型の水槽などが適しています。
カナブンは意外と力強く、フタの隙間から脱走してしまうことがあるため、フタがしっかりと閉まるか、重しを置けるタイプを選ぶと安心です。
単独飼育であれば小さめでも構いませんが、複数匹を飼育する場合は、カナブン同士のストレスを軽減するためにも、できるだけ広いスペースを確保してあげましょう。
目安としては、カナブン1匹につき1L以上の容量が推奨されます。 - 床材
カナブンが潜ったり、隠れたりするための大切な場所です。
腐葉土や昆虫マット(カブトムシ・クワガタムシ用として市販されているものでOK)が最適です。
これらの床材は、保湿性があり、カナブンが落ち着ける環境を提供します。
ホームセンターの園芸コーナーやペットショップ、オンラインストアで手軽に購入できます。
厚さはケースの底に5~10cm程度敷き詰めるのが一般的です。 - 止まり木・隠れ家
カナブンは、ひっくり返ると自力で起き上がれないことがあります。
木の枝や朽ち木、昆虫ゼリーの空き容器などを入れてあげることで、彼らが転倒した際に自分で起き上がれる足場になります。
また、隠れる場所があることで、カナブンは安心して過ごすことができます。
自然の小枝を拾ってくる場合は、事前に軽く洗浄し、乾燥させてから使用しましょう。 - 餌皿(エサ台)
昆虫ゼリーや果物を置くためのものです。
市販の昆虫ゼリー用皿や、プラスチック製の浅い小皿で代用できます。
皿があることで、餌が床材に直接触れて腐敗するのを防ぎ、ケース内を清潔に保ちやすくなります。 - 霧吹き
ケース内の湿度を適切に保つために必須です。
床材の乾燥を防ぎ、カナブンが快適に過ごせる環境を維持します。 - ピンセット
フンや食べ残しを取り除いたり、カナブンを優しく移動させたりする際に便利です。
カナブンの入手方法|どこで出会える?
カナブンは身近な場所に生息していることが多いため、自分で捕獲することも、購入することも可能です。
- 自然での捕獲
カナブンは、クヌギ、コナラ、ヤナギといった広葉樹の樹液を好みます。
これらの木がある雑木林や公園、河川敷などを探してみましょう。
特に、カブトムシやクワガタムシが集まるような樹液の出ている木は、カナブンの絶好の生息地です。
カナブンは昼行性のため、日中に樹液に群がっている姿を比較的容易に発見できます。
網を使うのも良いですが、優しく手で捕まえることも可能です。 - 購入
確実に入手したい場合や、特定の種類のカナブン(例えば、アオカナブンなど)を飼育したい場合は、昆虫専門店、一部のペットショップ、またはオンラインショップを利用すると良いでしょう。
生体の状態が良いものを選び、購入後は速やかに新しい環境に慣らしてあげることが大切です。
2. カナブンが喜ぶ住まい|飼育環境のベストプラクティス

飼育用品が揃ったら、カナブンが心地よく過ごせる環境を整えてあげましょう。
適切なセッティングが、カナブンの健康と長寿に繋がります。
ケースのセッティング手順
- 床材を敷く
飼育ケースの底に、用意した腐葉土や昆虫マットを5~10cm程度の厚さで均一に敷き詰めます。
カナブンは潜る習性があるので、ある程度の深さが必要です。 - 止まり木・隠れ家を配置
カナブンが上り下りできるような枝や、隠れて休める朽ち木などをケース内に配置します。
複数のカナブンを飼育する場合は、それぞれが隠れられるスペースを確保すると良いでしょう。 - 餌皿を設置
餌を置くための皿を、ケース内の取り出しやすい場所に設置します。
床材に直接餌を置くと、腐敗しやすくなるため、必ず皿を使用しましょう。 - 適度な湿度管理
床材全体に霧吹きで軽く水を吹きかけ、湿らせます。床材を軽く握って、水がにじむかどうかの程度が目安です。
乾燥しすぎるとカナブンにストレスを与えたり、潜れなくなったりする原因になります。
しかし、逆にベタベタに湿らせすぎると、カビや雑菌が繁殖しやすくなるため注意が必要です。
飼育場所の選び方と注意点
カナブンの飼育場所は、彼らの快適さに直結します。
- 直射日光を避ける
カナブンは高温に非常に弱いです。
特に真夏の直射日光は、ケース内の温度を急上昇させ、カナブンが短時間で弱ってしまう原因となります。
必ず直射日光の当たらない、日陰の場所に置きましょう。 - 風通しの良い涼しい場所
玄関、リビングの隅、窓際から離れた場所など、風通しが良く、比較的涼しい場所が適しています。
エアコンの風が直接当たる場所も避けましょう。
急激な温度変化もカナブンにとってストレスとなります。 - 安定した場所
飼育ケースが倒れたり、落下したりしないよう、安定した平らな場所に設置しましょう。
特に小さなお子さんがいる家庭では、手の届きにくい安全な場所を選ぶと良いでしょう。
3. カナブンの食事と毎日のケア|健康維持の秘訣
カナブンを長く、元気に飼育するためには、適切な食事と日々の丁寧なケアが不可欠です。
栄養満点の餌の種類と与え方
カナブンの主食は自然界では樹液です。
飼育下では、それに代わる以下のものを与えましょう。
- 昆虫ゼリー
最も手軽で、栄養バランスも考慮されているため、カナブンの主要な餌として最適です。
様々なメーカーから販売されており、食いつきも非常に良いです。
与える際は、毎日新しいものに交換し、食べ残しはすぐに取り除きましょう。 - 熟した果物
バナナ、リンゴ、ブドウ、スイカ、モモなどがカナブンの好物です。
甘みが強く、水分も補給できるため、嗜好性が高い餌となります。
しかし、果物は非常に傷みやすく、腐敗するとコバエの発生源になったり、カナブンが病気になったりする原因になります。
必ず毎日交換し、腐敗臭がしたり、変色したりしているものはすぐに取り除いてください。 - 樹液が出る木の枝
もし手に入るのであれば、クヌギやコナラ、ヤナギなどの樹液が出る木の枝を与えてみましょう。
自然に近い形で樹液を舐める姿を観察できます。
ただし、枝はすぐに乾燥してしまうため、頻繁に交換が必要です。
日々欠かせないお世話のルーティン
健康なカナブンを育てるためには、毎日のお世話が大切です。
- 餌の交換
最も重要なケアの一つです。
前述の通り、昆虫ゼリーも果物も、毎日新しいものに交換しましょう。
特に夏場の暑い時期は、餌の傷みが早いため注意が必要です。 - 湿度チェックと霧吹き
床材の乾燥具合を毎日確認し、必要であれば霧吹きで軽く湿らせます。
床材が乾いていると、カナブンが潜れなくなり、ストレスを感じやすくなります。
また、適切な湿度はダニなどの害虫の発生を抑制する効果もあります。 - フンや食べ残しの除去
ケース内を清潔に保つことは、カナブンの健康を守る上で非常に重要です。
フンや食べ残しは、コバエの発生や雑菌の繁殖、カビの原因となるため、こまめにピンセットなどで取り除きましょう。 - カナブンの状態確認
毎日、カナブンが元気か、ひっくり返っていないかなどを確認しましょう。
もしひっくり返って自力で起き上がれない場合は、優しく起こしてあげてください。
また、体に異常がないか(ダニが付いていないかなど)も観察しておくと良いでしょう。 - 定期的な床材交換
月に1回程度、または汚れが目立ってきたら、床材を全て交換することをおすすめします。
これにより、ケース内を常に清潔に保ち、病気や害虫の発生を未然に防ぎます。
4. カナブンの繁殖にチャレンジ!命の神秘を感じる体験

カナブン飼育に慣れてきたら、ぜひ繁殖にも挑戦してみましょう。
卵から幼虫、そして成虫へと成長する生命のサイクルを間近で観察できる、貴重な体験ができます。
繁殖に必要な環境と準備
- オスとメスを用意する
カナブンはオスとメスがいれば、自然と交尾し、産卵します。- オスの見分け方
多くの場合、頭部がメスよりも大きく発達しており、種類によっては小さな角のような突起が見られます。
また、体全体がやや細身で、腹部の先端がシャープな傾向があります。 - メスの見分け方
頭部がオスよりも小さく、全体的に丸みを帯びた体型をしています。
腹部がオスよりも膨らんでいることが多いです。
- オスの見分け方
- 産卵に適したマット
通常の昆虫マットではなく、産卵用の発酵マット(カブトムシ・クワガタムシの産卵用として市販されているもの)を用意しましょう。
粒子が細かく、栄養分が豊富で、メスが産卵しやすい環境を提供します。
ケースに10~15cm程度の厚さにしっかりと敷き詰めます。 - 安定した温度と湿度
産卵には、25℃前後の安定した温度と、高めの湿度が重要です。
乾燥すると産卵しにくくなるため、霧吹きで適度に湿らせ、マットが常にしっとりしている状態を保ちましょう。
産卵から幼虫飼育、そして羽化まで
- 交尾と産卵
適切な環境が整っていれば、オスとメスは自然に交尾します。
その後、メスは発酵マットの中に潜り込み、卵を産み付け始めます。
産卵は数日から数週間にわたって行われることがあります。 - 幼虫の取り出し
産卵後、約1ヶ月ほど経ったら、マットを丁寧に掘り返して幼虫を探します。
幼虫は非常にデリケートなので、傷つけないように優しく扱いましょう。
割り出しは、手でマットを少しずつ崩していく方法が一般的です。 - 幼虫の飼育
孵化した幼虫は、個別飼育がおすすめです。
プリンカップや小型のケースに発酵マットを入れ、1匹ずつ飼育します。
幼虫はマットを食べて成長するため、マットが乾燥しないように管理し、数ヶ月に一度、新しい発酵マットに交換してあげましょう。
マットの交換時期は、幼虫のフンが目立つようになったら目安です。 - 蛹化・羽化
幼虫は、十分に成長すると冬を越し、翌年の春から初夏にかけてマットの中で蛹になります。
蛹の期間を経て、やがて美しい成虫として羽化し、再び夏の空へと飛び立つ準備をします。
この羽化の瞬間は、まさに生命の神秘を感じさせる感動的な光景です。
5. カナブン飼育で困った時に|よくあるトラブルと対策
カナブン飼育は比較的簡単ですが、いくつか注意すべきトラブルもあります。
Q1. コバエがわいて困っています。どうすればいいですか?
A1. カナブンは樹液や果物を餌にするため、コバエが発生しやすい傾向にあります。
* 対策
* 餌の徹底的な管理:昆虫ゼリーや果物は毎日交換し、特に果物は傷む前に必ず取り除きましょう。
* ケースの清潔維持:フンや食べ残しはこまめに除去し、定期的に床材を交換してケース内を清潔に保ちます。
* 通気性の確保:ケースの通気孔が詰まっていないか確認し、空気の流れを良くしましょう。
* コバエ対策グッズ:市販のコバエ誘引剤や、ケースの通気孔に貼るコバエ防止シートなども有効です。
Q2. カナブンがひっくり返ったまま動かないことがあります。大丈夫ですか?
A2. カナブンは、ひっくり返ると自力で起き上がれないことがあります。
特に体力が落ちていたり、足場がなかったりすると起き上がれずに体力を消耗し、死に至る可能性もあります。
* 対策
* 止まり木・足場の設置:必ず止まり木や朽ち木、大きめの枝などをケース内に入れてあげましょう。
* 定期的な確認:毎日ケースを観察し、ひっくり返っているカナブンがいたら優しく起こしてあげましょう。
Q3. カナブンが餌を食べません。病気でしょうか?
A3. カナブンが餌を食べない原因はいくつか考えられます。
* 対策
* 環境の確認:温度が高すぎたり、低すぎたりしていませんか?
直射日光が当たっていませんか?適切な温度(20℃~30℃程度)と湿度が保たれているか確認しましょう。
* 餌の種類
昆虫ゼリーの味を変えてみる、または熟した果物を試してみるなど、餌の種類を変えてみるのも良いでしょう。
* 寿命
成虫の寿命は数週間〜1ヶ月程度です。
寿命が近づいている可能性も考えられます。
* ストレス
複数飼育でカナブン同士のケンカが多い、または環境変化によるストレスも考えられます。
一時的に単独飼育にしてみるなどの対応も有効です。
まとめ|カナブンと共に過ごす、かけがえのない夏
カナブンは、その美しい姿と比較的飼育のしやすさから、夏の昆虫観察に最適な存在です。
この記事でご紹介した飼育方法とポイントを参考に、ぜひあなたもカナブン飼育に挑戦してみてください。
彼らの小さな命の輝きは、私たちに夏の思い出だけでなく、生命の尊さや自然の摂理を教えてくれる、かけがえのない体験となるはずです。
カナブンと共に過ごす夏は、きっとあなたの心に深く刻まれるでしょう。
コメント