カマキリを飼育している際、最もショッキングな出来事の一つが「共食い」です。
昨日まで仲良く(見えただけですが)同じケースにいた個体が、翌日には無残な姿になっている……。
「なぜ仲間を食べてしまうのか?」「防ぐ方法はなかったのか?」
そんな疑問に答えるべく、本記事ではカマキリが共食いをする生物学的な理由から、交尾時の特殊な生態、そして飼育下での事故をゼロにするための対策まで深掘りして解説します。
1. カマキリが共食いをする4つの生物学的理由
カマキリにとって、共食いは「悪」ではなく「生存戦略」です。
彼らの脳には「仲間」という概念がほとんど存在しません。
① 「動くもの=獲物」という狩猟本能
カマキリは待ち伏せ型の捕食者です。
優れた動体視力を持っており、視界の中で動くものは、サイズが適正であればすべて「餌」と認識します。
相手が兄弟であろうと交尾相手であろうと、動いた瞬間に捕食スイッチが入ってしまうのです。
② 高い栄養価の確保
カマキリは不完全変態の昆虫であり、脱皮を繰り返して大きくなります。
脱皮には膨大なエネルギーが必要です。
同種の体は自分が必要とする栄養素(アミノ酸バランスなど)を完璧に備えた「最高の栄養源」となってしまいます。
③ 縄張り意識と個体密度
カマキリは一定のテリトリーを持って生活します。
狭い空間に複数の個体がいると、ストレスを感じるだけでなく、物理的に接触する機会が増えます。
この接触が攻撃行動を誘発し、結果として強い個体が弱い個体を食べる形になります。
④ メスの産卵エネルギー
特に成虫のメスは、数百個の卵を含む「卵鞘(らんしょう)」を作るために、通常の数倍のタンパク質を必要とします。
この時期のメスは食欲が極限まで高まっており、最も共食いが起きやすい状態です。
2. 【深掘り】交尾時の共食い:オスはなぜ逃げないのか?
「カマキリのメスは交尾中にオスの頭を食べる」という話は有名ですが、これには非常に合理的(かつ残酷)なメカニズムがあります。
脳を食べられても「交尾」は続く
カマキリの交尾をコントロールする神経節は、実は「お腹(腹部)」にあります。
むしろ、頭部にある脳は交尾行動を抑制する働きを持っていることがあり、メスに頭を食べられることでその抑制が外れ、オスはより激しく、より確実に精子を送り込む運動を続けることができるのです。
オスが食べられる確率は?
実は、すべてのオスが食べられるわけではありません。
野外での調査では、交尾時にオスが食べられる確率は約13%〜30%程度と言われています。
オスも命がけですので、メスの隙を突いて背後に飛び乗ったり、交尾後に素早く飛び降りたりと、逃走のテクニックを持っています。
飼育下では逃げ場がないため、この確率が跳ね上がってしまいます。
3. 幼虫期の「兄弟げんか」を防ぐには?
卵のうから数百匹の赤ちゃん(初齢幼虫)が生まれたとき、最初の難関が共食いです。
- 1齢幼虫の時期
生まれた直後はまだ共食いしにくいですが、最初の餌を食べる頃から始まります。 - 対策
生まれたらすぐに大きなネットケージに移すか、個別に分けるのが理想です。 - 餌の密度
ショウジョウバエなどの餌を「常に食べきれないほど」入れておくことで、兄弟を襲うリスクを下げられます。
4. 飼育下で共食いを100%防ぐための完全ガイド
家庭でカマキリを育てる際、共食いを防ぐための具体的なチェックリストです。
① 原則は「単独飼育」
カマキリ飼育の鉄則は「1ケースに1匹」です。
100円ショップのプラケースや、通気性の良いネットケージを用意しましょう。
カマキリは「寂しい」と感じることはありません。
1匹で過ごすことが彼らにとって最大のストレス軽減になります。
② 多頭飼いをする場合の工夫(シェルターの設置)
どうしても同じスペースで飼う場合は、以下の工夫が必要です。
- 立体的な隠れ家
枝、造花、ネットなどを複雑に配置し、お互いの視線を遮ります。 - 十分な広さ
少なくとも個体の体長の10倍以上の距離が保てるスペースを確保してください。
③ 徹底した給餌と水分補給
空腹は最大の共食い要因です。
- 餌の頻度
お腹がへこんでいたらすぐに餌を与えます。 - 水分
水分不足も攻撃性を高めます。
霧吹きでケースの壁面に水滴をつけてあげましょう。
④ 交尾(ペアリング)時のテクニック
繁殖を狙う場合、最も危険なのがペアリングです。
- メスを満腹にさせる
オスを投入する直前に、メスに大好物の餌(バッタや生肉など)をたっぷり与え、食べることに夢中になっている間にオスを近づけます。 - 広い場所で行う
交尾が終わった瞬間にオスが逃げられるよう、蓋を開放した広いスペースで見守るのがベストです。
5. まとめ:自然の摂理を理解して飼育を楽しもう
カマキリの共食いは、私たち人間から見ればショッキングですが、彼らが数億年かけて磨き上げた「命を繋ぐためのシステム」です。
- 共食いは悪ではなく、生きるための効率的な手段。
- 飼育下では「単独飼育」が最強の防衛策。
- 交尾時はメスの空腹を満たすことが成功の鍵。
この性質を正しく理解することで、カマキリの力強さや生態の不思議をより深く楽しめるのではないでしょうか。


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