繊細で美しい姿を持つイトトンボ。
「飼ってみたい」と思う方も多いかもしれませんが、実はイトトンボの飼育は非常に難易度が高いことで知られています。
特に成虫飼育は、適切な環境と毎日の特殊な給餌が不可欠です。
この記事では、イトトンボの飼育に挑戦したい方へ向けて、比較的飼育しやすいヤゴ(幼虫)から、難関の成虫まで、各ステージでの飼育方法と成功のポイントを徹底解説します。
イトトンボの飼育難易度と心構え
| ステージ | 難易度 | 特徴と注意点 |
| ヤゴ(幼虫) | 中〜高 | 共食いを防ぐための個別飼育、動く生餌の確保、羽化準備が重要。 |
| 成虫 | 極高 | 広い飛翔スペースと湿度、そして何より「生きた小さな虫」を毎日与える特殊な給餌が必須。長期飼育は非常に困難。 |
イトトンボは繊細な生き物です。
特に成虫は環境変化に弱く、捕獲した個体はすぐに弱ってしまうことが多いため、「短期間の観察」と割り切り、最終的には自然に返すことも検討しましょう。
1. ヤゴ(幼虫)の飼育方法
ヤゴは水中で生活するため、比較的安定した環境を作ることが可能です。
羽化まで育てるには、以下のポイントが重要です。
1-1. 飼育容器と環境
| 項目 | 詳細 |
| 容器 | 小型水槽またはプラケース。 イトトンボのヤゴは小型なので、大きすぎる必要はありません。 |
| 底床 | もともとヤゴがいた場所の砂や泥を少量敷くと、環境が安定しやすいです。 |
| 水 | カルキを抜いた水(汲み置き水など)を使用します。水換えは、水が汚れたとき(餌の食べ残しなど)に行います。 |
| 水温 | 20〜25℃が目安。夏季は日陰に置き、水温が上がりすぎないよう注意が必要です。 |
| 共食い対策 | イトトンボのヤゴは共食いをしやすいため、基本的に個別飼育が推奨されます。 複数のヤゴを飼育する場合は、隠れ家となる水草や小石をたくさん入れましょう。 |
1-2. ヤゴの餌と給餌方法
イトトンボのヤゴは肉食で、動くものしか食べません。
- 主な餌(生餌)
- イトミミズ
ヤゴの餌として最も適しており、熱帯魚店などで入手しやすいです。 - アカムシ(ユスリカの幼虫)
生きたアカムシがベスト。冷凍アカムシの場合は、ピンセットでつまんでヤゴの目の前で揺らし、動いているように見せて捕食させます。 - ミジンコ、ブラインシュリンプ
小さなヤゴや、ふ化したてのヤゴに適しています。
- イトミミズ
- 給餌頻度と量
- 食欲旺盛な暖かい時期は1日1〜2回。
- 餌は食べ残しがない程度に与え、水が汚れないように食べ残しはすぐに取り除きましょう。
1-3. 羽化の準備
ヤゴが終齢になり、体が大きくなったら羽化の準備をします。
- 足場
水面から10cm以上出る棒、枝、または水草を斜めに立てて入れます。 - サイン
羽化が近づくと、ヤゴは餌を食べなくなり、水面近くの足場に登ろうとする動きを見せます。 - 羽化時
羽化は早朝に行われることが多いです。乾燥しすぎないよう注意しつつ、静かに見守りましょう。
2. 成虫の飼育方法(極めて困難)
イトトンボの成虫飼育で最も困難なのが、「餌の確保と給餌」と「飛翔スペースの確保」です。
2-1. 飼育スペースと環境
トンボは飛翔する昆虫のため、通常のプラケースではすぐに翅が傷つき、弱ってしまいます。
- 広さ
できるだけ大きく、縦長のスペースが必要です。 - ケージの材質
網状の虫かご(洗濯ネットなどを加工したもの)や、部屋全体を蚊帳などで覆った専用スペースが理想的です。 - 足場と保湿
止まり木となる枝や水草を配置し、霧吹きなどで高い湿度を保ちましょう。
2-2. 成虫の餌と特殊な給餌技術
イトトンボは、飛翔中に小さな虫を捕まえる「空中キャッチ」で餌を食べます。
飼育下ではこの採餌行動が再現できないため、強制給餌が必要になります。
- 必須の餌
生きた小さな昆虫(ショウジョウバエ、小さな蚊、エサ用のレッドローチの幼虫など)。 - 給餌方法(非常に特殊)
- 生餌の確保: 毎日、新鮮で生きた小さな餌を大量に確保します。
- 強制給餌: ピンセットで生餌を挟み、イトトンボの口元(下唇)にそっと持っていき、食べさせます。
- 代替給餌: レッドローチなどの腹部を切って得られる体液をピンセットの先に付け、口元に運んでなめさせるという、非常に高度で繊細な給餌方法もあります。
成虫は餌を食べないとすぐに衰弱するため、この給餌を毎日複数回行う必要があります。
3. 長期飼育を目指す上での注意点
- 清潔さ
食べ残しやフンで水が汚れると、病気や水質の悪化につながります。
水換えや掃除はこまめに行いましょう。 - 自然光
トンボは日光を浴びることで体温を上げ、活動を維持します。
屋外の明るい日陰など、直射日光が避けられる場所で飼育しましょう。 - ストレス
頻繁に触ったり、移動させたりすることはイトトンボに大きなストレスを与え、寿命を縮める原因となります。
まとめ
イトトンボの飼育は、ヤゴから成虫まで、難しさが伴いますが、その美しい姿を間近で観察できる貴重な体験です。
特にヤゴの飼育は、命の循環や成長を学ぶ良い機会になるでしょう。
飼育に挑戦する際は、この記事を参考に、イトトンボにとって最適な環境を用意し、責任をもって最後まで飼育に取り組みましょう。


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