ヘビトンボという昆虫をご存知ですか?
そのユニークな名前と、大きなアゴを持つ外見から、一度見たら忘れられない特徴を持っています。
実はこのヘビトンボ、美しい清流にしか生息できない水質指標生物であり、古くから日本の民間薬としても知られてきました。
この記事では、ヘビトンボの驚きの生態、名前の由来、そして歴史的な利用法である「孫太郎虫(まごたろうむし)」について解説します。
ヘビトンボの基本情報と生態
ヘビトンボは、ヘビトンボ目ヘビトンボ科に属する昆虫で、トンボの仲間ではありません。
トンボはサナギにならない不完全変態ですが、ヘビトンボはチョウやカブトムシと同じ完全変態をします。
🐍 名前の由来|ヘビのように「噛みつく」?
成虫の体長は約36〜40mm、翅(はね)を広げると100mmにもなる大型の昆虫です。
頭部から胸部にかけてが長く、大きな大アゴ(牙)を持っています。
この長い胸部を動かし、ヘビが鎌首をもたげるようにして噛みつこうとする姿や、噛む力が強いことから「ヘビ」に見立てられ、大きな翅で飛ぶ姿が「トンボ」に似ていることから、その名がつけられました。
💧 清流の証!幼虫は水生昆虫「孫太郎虫」
ヘビトンボの幼虫は、2〜3年かけて川の中で生活します。
彼らが好むのは、溶存酸素が豊富で水がきれいな上流〜中流の渓流です。
このため、ヘビトンボは水質の良さを示す指標生物として知られています。
幼虫は発達した大アゴを持つ肉食性で、水生昆虫などを捕食して育ちます。
その見た目から、地方によっては「かわむかで」とも呼ばれます。
特に知られているのが、この幼虫の呼び名である「孫太郎虫(まごたろうむし)」です。
🌙 成虫の活動と寿命
幼虫は十分に成長すると、春から初夏にかけて川岸に上陸し、石の下や朽木の中に穴を掘って蛹(さなぎ)になります。
蛹は約10日ほどで羽化し、成虫となります。
成虫は主に夜行性で、樹液や灯火に飛来する姿が見られます。
成虫の寿命は数日から10日ほどと短いです。交尾後、メスは水辺の葉裏などに卵を産みつけます。
「孫太郎虫」の歴史と民間薬としての利用
ヘビトンボの幼虫「孫太郎虫」は、古来より人々の生活と深く関わってきました。
💊 子どもの疳の薬として重宝
孫太郎虫は、古くから日本の民間薬として利用されてきました。
特に、小児の疳(かん)の虫の薬として有名でした。
- 疳の虫とは?
小児の夜泣き、かんしゃく、ひきつけなどの神経性の症状を指す民間的な概念です。 - 利用方法
乾燥させた幼虫を串に刺し、砂糖醤油などで焼いて服用する方法がとられていました。
この民間薬は、宮城県刈田郡斉川村(現在の白石市斉川)のものが特に有名で、その地でこの虫の効能を発見したとされる人物の物語から「孫太郎虫」と名付けられたと伝えられています。
🎣 釣り餌や食用(ざざむし)としても利用
薬用以外にも、孫太郎虫はその高い栄養価から食用とされる地域もありました。
- 釣り餌
渓流釣りの餌として利用されてきました。 - ざざむし
長野県伊那谷地方などでは、水生昆虫の幼虫を総称して「ざざむし」と呼び、その佃煮の中にヘビトンボの幼虫も含まれることがあります。
まとめ
ヘビトンボは、トンボの仲間ではない完全変態の昆虫で、その大きなアゴとユニークな名前が特徴です。
清流にしか棲めない幼虫は「孫太郎虫」と呼ばれ、かつては小児の疳の薬として利用されるなど、日本の文化や民間医療において重要な役割を担っていました。
もし清流のほとりで大きなアゴを持つこの虫を見かけたら、それはその川が豊かな自然環境を保っている証かもしれませんね。


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