夏の終わりから秋にかけて、どこからともなく聞こえてくる「コロコロコロ…」という美しい鳴き声。この音色の主こそ、日本のコオロギを代表する存在、「エンマコオロギ」です。
その厳めしい名前とは裏腹に、古くから人々に愛され、秋の風物詩として親しまれてきました。
しかし、その生態や飼育方法については、意外と知られていません。
本記事では、エンマコオロギの魅力に迫り、その生態や特徴、そして自宅で飼育する際のポイントまでを解説します。
鳴き声を楽しむ「鳴き虫」として、あるいは生命の神秘を観察する対象として、エンマコオロギの奥深い世界を一緒に探求しましょう。
エンマコオロギとは?基本情報と名前の由来
エンマコオロギは、日本全国に広く分布するコオロギ科の昆虫です。
その存在は非常に身近で、秋の夜に耳を澄ませば、きっとその鳴き声が聞こえてくるでしょう。
厳めしい名前「閻魔」の由来
エンマコオロギという名前は、その見た目からつけられたと言われています。
体長3cm〜4cmと日本のコオロギの中では最大級で、光沢のある真っ黒な体と丸く大きな頭が特徴です。
その厳かな姿が、仏教における地獄の王「閻魔大王」を連想させることから、この名前が付けられたとされています。
見た目とは対照的に、美しい鳴き声を持つというギャップも、この昆虫の魅力の一つです。
エンマコオロギの基本データ
- 学名
Teleogryllus emma - 体長
♂ 25-35mm、♀ 30-40mm(メスの方がやや大きい) - 分布
北海道、本州、四国、九州 - 活動時期
成虫は8月〜11月頃 - 特徴
- つやつやした黒色の体
- オスは複雑な模様の前翅を持つ
- メスは長く鋭い産卵管を持つ
- 太い後脚を持ち、跳躍力に優れる
エンマコオロギの生態|知られざるその暮らし
エンマコオロギは、私たちの身近な場所に生息しながらも、その詳しい生態はあまり知られていません。
ここでは、彼らのユニークな生活サイクルを探ります。
どこにいる?生息場所と分布
エンマコオロギは、草むら、畑、川原、公園など、比較的開けた草地に多く生息します。
日中は、枯れ葉や石の下、地面の穴などに身を潜めており、夜になると活発に活動を開始します。
日本の広い地域に分布しているため、意識して探してみると、意外と簡単に見つけることができます。
何を食べる?雑食性の食生活
彼らは雑食性で、様々なものを食べます。
植物の葉や種子、野菜くずはもちろん、他の昆虫の死骸やミミズなどの小動物も捕食します。
この旺盛な食欲は、飼育下でも注意すべき点であり、タンパク質が不足すると共食いを起こすことがあるため、バランスの取れた餌を与えることが重要です。
殖と一生|卵から成虫まで
エンマコオロギの寿命は、成虫になってから約1〜2ヶ月ほどですが、その一生は1年を通して続きます。
- 産卵と越冬
秋に交尾を終えたメスは、長い産卵管を土に突き刺し、1個ずつ卵を産み付けます。
卵はそのまま土の中で越冬し、親となる成虫は冬を越せずに死んでしまいます。 - 孵化と成長
翌年の5月〜6月頃になると、気温が上がって卵が孵化し、小さな幼虫が出てきます。
幼虫は脱皮を繰り返し、少しずつ大きくなっていきます。 - 羽化
夏の終わり頃、終齢幼虫は最後の脱皮を経て羽化し、成虫になります。
羽化したばかりの成虫は体が淡い色をしていますが、数時間かけて徐々に黒くなっていきます。
このように、エンマコオロギは日本の季節の変化に合わせて、巧妙にその命をつないでいるのです。
【必聴】エンマコオロギの鳴き声の種類と意味
エンマコオロギの魅力といえば、やはりその美しい鳴き声でしょう。
しかし、その鳴き声にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる意味を持っています。
「コロコロリー」と「キリキリキリ」:鳴き声の使い分け
オスが鳴くのは、主に求愛と縄張りの主張のためです。
- 求愛の鳴き声
「コロコロ…リー」という優しい節の鳴き声は、遠くにいるメスを呼び寄せ、交尾を促すためのものです。 - 争いの鳴き声
複数のオスが近くにいる場合、縄張りを守るために「キリキリキリ」という速く鋭い鳴き声をあげて威嚇します。
秋が深まり、昼間でも鳴き声が聞こえるようになるのは、夜間の気温が下がり、活動時間が短くなるためと言われています。
オスだけが鳴く理由
コオロギが鳴くのは、前翅をこすり合わせる「擦翅発音」という仕組みによるものです。
オスは求愛や縄張り争いのために、この発音を可能にする特別な構造の前翅を持っています。
一方、メスの前翅にはこの構造がないため、鳴くことはできません。
エンマコオロギの飼育方法:初心者でも簡単!
エンマコオロギは、比較的飼育しやすい昆虫です。
その美しい鳴き声を自宅で楽しむために、飼育にチャレンジしてみましょう。
4飼育に必要なアイテム
- 飼育ケース
昆虫用プラスチックケースや、脱走防止の蓋があるケースが最適です。 - 床材
赤玉土、黒土、ヤシガラ土など、メスが産卵できる土を厚さ3cm以上敷き詰めます。 - 隠れ家
飼育ケース内に、植木鉢の破片や丸めた新聞紙、落ち葉などを入れてあげましょう。 - 餌皿・水入れ
浅い皿を用意します。水入れには、溺死防止のため濡らした脱脂綿やスポンジを入れます。
飼育ケースの準備とレイアウト
ケース内に床材を敷き、隠れ家と餌皿・水入れを配置します。
エンマコオロギは縄張り意識が強いため、複数のオスを一緒に飼うと喧嘩になる可能性があります。
可能であれば、オスとメスを分けて飼育するか、ケースを複数用意しましょう。
餌と水の与え方
雑食性なので、昆虫用の人工飼料の他に、新鮮な野菜(キャベツ、ニンジン)、果物(リンゴ、バナナ)、そして動物性タンパク質として鰹節や煮干しなどを少量与えましょう。
餌は毎日交換し、食べ残しはカビの原因になるため取り除きます。
水は、スポンジが常に湿っている状態を保つようにします。
繁殖に挑戦:卵の産ませ方と越冬
メスを飼育している場合、秋になると産卵します。
土の湿度が重要なので、霧吹きで適度に湿らせておきましょう。卵はそのままにしておくと、翌春に孵化します。
冬の間はケースを凍らない場所に置き、乾燥させないように管理します。
エンマコオロギと似たコオロギの種類
エンマコオロギに似たコオロギも存在します。
- オカメコオロギ
エンマコオロギより一回り小さく、褐色をしています。
鳴き声は「チリリリ…」と異なります。 - ツヅレサセコオロギ
エンマコオロギと同様に鳴き虫として有名ですが、より小型で、鳴き声は「ツヅレサセ…」と特徴的です。 - タイワンエンマコオロギ
エンマコオロギの近縁種で、暖地に生息します。
外見は似ていますが、遺伝子的に異なることが分かっています。
まとめ|エンマコオロギが教えてくれる秋の風情
エンマコオロギは、その美しい鳴き声と独特な生態で、私たちに秋の訪れを知らせてくれる特別な存在です。
その厳めしい見た目とは裏腹に、繊細なコミュニケーションを交わし、日本の四季の中で命を繋いでいます。
もし、この記事を読んでエンマコオロギに興味を持ったなら、ぜひ一度、その美しい音色に耳を傾けてみてください。
そして、飼育に挑戦し、その生命の営みを間近で観察してみるのも良いでしょう。
エンマコオロギを通して、自然とより深く繋がることができるはずです。
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