秋の夜長に聞こえてくる、あの美しい「チン、チン…」という鳴き声。
その正体は、体長わずか1cmほどの小さな鳴く虫「カネタタキ」です。
都市部の街路樹や生垣にもひっそりと生息し、実は多くの人がその声を聞いているにもかかわらず、その姿を見たことがないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、この風流な昆虫、カネタタキの特徴から鳴き声の秘密、さらに飼育方法まで、解説します。
1. カネタタキとは?【基本情報と生態】
カネタタキは、バッタ目カネタタキ科に属するコオロギの仲間です。
| 項目 | 詳細 |
| 分類 | 昆虫綱 バッタ目 カネタタキ科 |
| 体長 | 約9〜15mmの小型昆虫 |
| 出現時期 | 8月下旬頃から11月下旬頃(地域による) |
| 生息地 | 樹上性。公園や庭木、生垣などの低木 |
| 食性 | 雑食性(若葉、新芽、小さな昆虫の死骸など) |
| 分布 | 本州(主に岩手・秋田県以南)、四国、九州、南西諸島 |
独特の形態:なぜ見つけにくい?
カネタタキは体が扁平で、淡褐色の鱗片に覆われています。
この色と形が、樹木や葉の陰に隠れるのに非常に適しています。
- オス:発音のために非常に短い前翅を持ちますが、飛ぶことはできません。
- メス:翅を持たず、直線状に伸びた産卵管が特徴です。
その姿が小さく、常に葉の裏側や重なった葉の間など、目につきにくい場所で活動しているため、「鳴き声はよく聞くが姿は見たことがない」という状況を生み出しています。
2. 「チン、チン」という鳴き声の秘密
カネタタキの和名「鉦叩き(カネタタキ)」は、その鳴き声が鉦(かね)を叩く音に似ていることに由来します。
鳴き声のメカニズムと特徴
- 鳴き方:「チン・チン・チン・チン…」という単調で小さな高い音を、比較的規則的に発します。
- 発音:オスが短い前翅をこすり合わせて音を出します(摩擦発音)。
- 活動時間:夏の終わりから秋の初めにかけては夜間に多く鳴きますが、気温が下がる晩秋には昼夜を問わず鳴くようになります。
かつては、この鳴き声が「鳴くミノムシ」と誤解されていた時代もあり、『枕草子』にも登場するほど、古くから親しまれてきた秋の風物詩です。
鳴き声を楽しむコツ
カネタタキは非常に小さな声で鳴くため、アオマツムシなどの大音響の鳴く虫と異なり、静かな環境で耳を澄ませる必要があります。
生垣や街路樹の近くで立ち止まり、梢の方から聞こえてくる「チン、チン」という音を探してみましょう。
3. カネタタキの飼育方法
カネタタキは丈夫で飼いやすい鳴く虫の一つです。
その美しい声を楽しむために、自宅での飼育に挑戦してみるのも良いかと思います。
飼育環境のポイント
- ケース
非常に小さいため、わずかな隙間からも逃げ出します。
通常の飼育ケースを使う場合は、フタとケースの間に目の細かいネットや布を挟むなど、脱走防止対策が必須です。 - 湿度と通気性
樹上性で風通しの良い環境を好むため、蒸れに弱いです。
密閉性の高い容器は避け、適度な通気性を確保してください。 - レイアウト
樹上性のため、スズムシのような土は不要です。
底に新聞紙などを敷き、隠れられる葉っぱやとまり木(枯れ枝など)を入れてあげましょう。
餌と水分補給
カネタタキは雑食性です。
- 植物質
ナスやキュウリなどの野菜の切れ端、リンゴ、生の落花生など。 - 動物質
昆虫用ゼリー、鳴く虫用の粉末餌、魚の餌、カツオ節、煮干しなど。
餌は腐ったりカビが生えたりしないよう、新鮮なものを少量ずつ与え、毎日交換しましょう。
水分は、野菜やコケから摂取できるため、水分が多い餌を与えている場合は特に水飲み場は必要ありません。
飼育の注意点
- 共食い
共食いをすることがあるため、過密飼育は避け、オス・メスを少なめに飼育するのが安全です。 - 冬越し
本州では卵で越冬します。
繁殖を狙う場合は、産卵管の有無でオス・メスを見分け、土やミズゴケを入れたケースで産卵させ、自然界と同じように冬の寒さに当てて管理する必要があります。
まとめ
カネタタキは、その小さな体からは想像もつかないほど、秋の情緒を感じさせてくれる魅力的な昆虫です。
姿を見るのは難しいかもしれませんが、身近な場所で聞こえる「チン、チン」という鳴き声に耳を傾けることで、日常の中に潜む小さな自然の楽しみを発見できるでしょう。
飼育にも挑戦し、その美しい鳴き声を長く楽しんでみてはいかがでしょうか。


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