日本の夏の風物詩といえば、けたたましい鳴き声で私たちを楽しませてくれるセミたち。
その中でも特に身近な存在がアブラゼミではないでしょうか。「ジージー」という特徴的な鳴き声は、都会のコンクリートジャングルでもよく耳にします。
しかし、実は日本にはアブラゼミによく似た、それでいて少し異なるセミが存在するのをご存存知でしょうか? それがリュウキュウアブラゼミです。
この記事では、日本のセミの中でも特に混同されやすいリュウキュウアブラゼミとアブラゼミに焦点を当て、その生息地の違いから、鳴き声の特徴、さらには細かな見分け方まで解説します。
夏の自由研究やセミ観察の参考に、ぜひ最後までお読みください。
アブラゼミとは?日本の夏の代表種を深掘り
アブラゼミ(Graptopsaltria nigrofuscata)は、日本本土から広く東アジアに分布するセミの一種です。
その名前の由来は、鳴き声が油で何かを揚げているように聞こえることから来ています。
生息地と分布
アブラゼミは、北海道南部から本州、四国、九州、そして対馬や屋久島など、日本の広い範囲に生息しています。
特に平地から低山地にかけての市街地や公園、雑木林などでよく見られ、私たちにとって最も身近なセミと言えるでしょう。
都市部の環境にも比較的順応しており、街路樹などでもその姿を見かけることができます。
鳴き声の特徴

アブラゼミの鳴き声は、「ジリジリジリ……」「ジーー、ジジジ……」といった、油を揚げているような連続した低い音が特徴です。
単調に聞こえますが、その音量と持続性には圧倒されます。
彼らは主に昼間、特に気温が上がる日中に活発に鳴き、その鳴き声は真夏の暑さを象徴するかのようです。
体の特徴と見分け方
アブラゼミは、体長がオスで約53~60mm、メスで約43~49mmと、比較的大きなセミです。
- 体色: 全体的に黒褐色をしており、やや光沢があります。
- 羽: 最大の特徴は、翅(はね)が不透明な褐色であることです。
これにより、他のセミ(例えば透明な翅を持つクマゼミやミンミンゼミ)と簡単に見分けることができます。
この不透明な翅が、彼らの「アブラ」という名前に繋がっているとも言われます。 - 模様: 頭部や胸部には、黄緑色や茶褐色の複雑な模様が入りますが、個体差も大きいです。
リュウキュウアブラゼミとは?南国の鳴き声を聞き分けよう
一方、リュウキュウアブラゼミ(Graptopsaltria bimaculata)は、その名の通り、日本の南西諸島を中心に生息するアブラゼミの仲間です。
生息地と分布
リュウキュウアブラゼミは、主にトカラ列島以南の南西諸島(奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島、西表島など)に分布しています。
これらの島々の照葉樹林や亜熱帯林でよく見られますが、都市部の公園や街路樹でもアブラゼミと同様に適応している姿を見ることができます。
沖縄などでは、アブラゼミに代わって最も身近なセミの一つとされています。
鳴き声の特徴

リュウキュウアブラゼミの鳴き声も、アブラゼミと同様に「ジージー」と表現されますが、決定的な違いがあります。
それは、アブラゼミよりもはるかに高い音階で鳴くことです。
- 「キィーーン、キィーーン」というような、金属的で甲高い鳴き声が特徴です。時には「ジィィィィィィィ」
- 体色: アブラゼミ同様に黒褐色。
- 羽: アブラゼミと同じく、翅(はね)は不透明な褐色です。
この点でミンミンゼミなどと区別できます。 - 模様: 腹部には黄色の斑紋(まだら模様)が見られることがありますが、アブラゼミとの見分けは困難な場合も多いです。
リュウキュウアブラゼミとアブラゼミの決定的な見分け方!
姿形が非常によく似ているため、リュウキュウアブラゼミとアブラゼミを確実に見分けるには、以下の点に注目しましょう。
1. 生息地|地理的分布が最大の手がかり
最も確実な見分け方は、生息している地域です。
- アブラゼミ: 北海道南部〜九州の本土部が主な生息地。
- リュウキュウアブラゼミ: トカラ列島以南の南西諸島が主な生息地。
例えば、東京で捕まえたセミであればまずアブラゼミであり、沖縄で捕まえたセミであればリュウキュウアブラゼミである可能性が極めて高いです。
2. 鳴き声|耳を澄ませて違いを聞き分けよう
次に重要なのが鳴き声の音階です。
- アブラゼミ|「ジージー」と、低く連続した音。
- リュウキュウアブラゼミ|「キィーーン、キィーーン」と、金属的で甲高い音。
どちらも「ジージー」と表現されることがありますが、実際に聞き比べるとその音階の高さに明確な違いがあります。
沖縄など両種が生息しない地域では、この鳴き声の違いを覚えておくと良いでしょう。
3. 体の構造(専門家向け・観察のポイント)
さらに詳細な見分け方として、専門家はオスの腹弁(ふくべん)の形状や、体の微細な構造を比較します。
しかし、肉眼での判別は非常に難しいため、一般的な観察においては、上記の生息地と鳴き声が最も有効な見分け方となります。
- オスの腹弁
オスのセミは腹部に鳴き声を発するための大きな構造(腹弁)を持っています。
リュウキュウアブラゼミのオスは、アブラゼミのオスに比べて、この腹弁の内縁がより直線的である、などの微細な違いがあると言われています。
しかし、これは専門的な知識とルーペなどの観察器具が必要になります。 - 体色や翅の斑紋
個体差や光の当たり方にもよるため確実ではありませんが、リュウキュウアブラゼミの方が、やや緑色を帯びた個体や、翅の付け根に特徴的な斑紋を持つ個体が多い傾向がある、といった意見もあります。
ただし、これらはあくまで傾向であり、決定打とはなりません。
なぜ似ている?種分化の歴史と地理的隔離
リュウキュウアブラゼミとアブラゼミがこれほど似ているのは、両種が非常に近縁な関係にあるためです。
元々は同じ祖先種から分かれたと考えられています。
- 地理的隔離
日本列島が形成される過程や、氷期と間氷期の繰り返しによる海面変動により、それぞれの生息地が地理的に隔てられました。 - 独立した進化
隔離された環境で、それぞれが独自の進化を遂げ、遺伝的な違いが蓄積されました。
その結果、鳴き声の周波数や体の一部にわずかな差が生じ、現在のリュウキュウアブラゼミとアブラゼミという別の種に分化したと考えられています。
この現象を「異所的種分化」と呼びます。
このように、似たようなセミが異なる地域に生息している背景には、地球の歴史と生物の進化の壮大なドラマが隠されているのです。
まとめ
日本の夏の風物詩であるセミの中でも、特に混同されやすいアブラゼミとリュウキュウアブラゼミ。両者ともに翅が不透明な褐色の「アブラゼミ型」ですが、その見分け方には明確なポイントがあります。
- 最も確実なのは生息地。北海道南部〜九州本土であればアブラゼミ、トカラ列島以南の南西諸島であればリュウキュウアブラゼミの可能性が高いです。
- 次に重要なのは鳴き声の音階。アブラゼミが「ジージー」と低い音階で鳴くのに対し、リュウキュウアブラゼミは「キィーーン、キィーーン」と金属的な甲高い音で鳴きます。
これらの知識を携えて夏のセミ観察に出かければ、いつもの夏がもっと面白くなるはずです。
耳を澄ませ、目を凝らして、それぞれのセミが奏でる夏の音色と、その多様な姿を楽しんでみてください。
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